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ヒラスは自分にとって特別な魚である。精悍な外見、強烈な締め込み、そのすべてに惚れ込んでいる。だが、この魚を磯から獲ろうと思うと、一筋縄ではいかないのは周知のとおり。ルアーで狙う場合はマキエの効力に頼れないため、まず回遊そのものが安定しないし、やっとの思いで魚を掛けたとしても、相手は未熟なアングラーをあざ笑うかのごとく、いとも簡単にラインをぶった切っていく。偶然や運に頼らずにヒラスを獲るためには、非情のファイトに徹するほかない。マゾヒズムとサディズム。自分を含め磯ヒラスに傾倒するアングラーは、この両方を持ち合わせた真のモノ好きなんだと思う。
朝マズメ。潮が当てている方向にルアーを打ち込む。ミドルレンジからトップまで、一通り試すが反応がない。ちょっと嫌な予感がする。周辺海域にヒラスがいることはほぼ確信しているが、もしかすると磯際に到着する前に沖でベイトに付いてしまったかもしれない。こうなると一日苦戦を強いられることになる。朝マズメも半ばを過ぎたころ、120mほど沖でボイル。予想通りルアーより先にベイトを発見されてしまったようだ。どちらにせよ届かないので、無視して別ポイントを攻める。3分後、今度はギリギリ射程範囲内で同様のボイル。普段ならこれも無視するのだが、瀬際に魚の気配が皆無なこと、まだ光量が少ないため誤魔化しが利くかもしれないこと、たまたま装着しているルアーがペンシルポッパーで、泡に包めば誤魔化せるかもしれないこと、これらの理由からボイル目掛けてルアーを打ち込んでみる。ルアーが着水する直前にボイルは収まっていた。だが、まだそう離れたところには行っていないはず。そう自分に言い聞かせ、ラインスラックをとってワンアクション目。…「ドスッッ!!」 いきなり喰ってきた!!
絶対にラインを出せない厳しい磯なので、ドラグはほぼロック状態。おかげで、ヒットと同時に思いっきりのされる。ロッドを真っすぐにされてしまうが、その状態のまま無理やり綱引きファイトでリールを巻いて応戦。しかし、数回巻いたところでリールが巻けなくなってしまう。ならばと、ラインをまっすぐそのまま強引に引っ張り、ダイレクトな加撃で頭をこちらに向かせることを試みる。大概の魚ならばこれでこっちを向くのだが、数回加激しても一向にこちらを向く気配がない。もはやリールのパワーだけではラインが回収できないと悟り、ロッドの力を借りてファイトすることにする。太ももの付け根にグリップエンドを立て、ワンピッチのゴリ巻きでひたすらラインを回収する。これで結構な距離を巻いてこられたが、魚が寄ってくるにつれて抵抗も激しくなり、とうとうこれでもリールが巻けない状態に陥ってしまう。すかさずこちらもポンピングで応戦。20mほどこれで巻いてこれたが、魚が瀬際に寄るに従って、片腕ではロッドを引き起こせないようになってきた。ここでモタモタしていては相手の思うつぼ。自分に残された最終手段として、アッパーグリップを両腕で握り太ももを使ってポンピングするGTファイトを敢行。ヒットからここまで約60mの距離をほぼ無酸素運動で巻き上げてきたため、全身が酸欠気味になってしまっているが、ここで頑張らないとすべてが水泡に帰すと思いひたすらロッドを煽りリールを巻き殴る。だが、無情にも魚は足元の根に入ってしまった。
ここでパニックになってはいけない。ラインの角度から、魚が入った根を特定する。干潮時に瀬際をくまなく確認した記憶から、魚が張り付いているところはそれほど根が厳しくないことに気づく。まだ勝ち目はある。ラインをフリーにし、魚にかりそめの安心感を与える。1分後、ベールを倒して軽いテンションを与えると魚がゆっくりと動き出した。出てきた!! ここからはもうどうやったかは覚えていないが、とにかくひたすらリールを巻きまくった。リーダーがガイドに入り、魚体が見えてくる。なんと根に突っ込んだときの海草を体中に巻きつけて上がってきた。磯を後ずさりしながらズリ揚げ、珠玉の勝利を手中に収めた。
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90cm 6kgのヒラス。ナイスサイズだが、あの引きからするともっと大きくてもおかしくないというのが正直な感想だった。ルアーを確認すると、テールフックが口に掛り、ボディフックがエラ蓋に掛っている。なるほど、どうりでダイレクトに加撃しても頭がこちらを向かないわけである。ひとまずストリンガーに繋ぎ、魚が落ち着くのを待つ。最近魚をたくさん釣って食べきれないので、釣り上げたときからリリースしたいと思っていた。単独釣行だったため、自動タイマーで写真撮影。これがなかなか難しく、なんども撮り直しに付き合ってもらう。数枚を撮影したあと、タイドプールで体力の回復を待ちながら、追い求めた魚との磯上の逢瀬を噛み締める。そして、瀬際からそっとリリース。ゆっくりと深みに泳いでいくその姿が今でも脳裏に焼き付いている。
| タックル | |
| ロッド | MC Works' レイジングブルXR-2 |
| リール | ダイワ ソルティガZ6000 |
| ライン | よつあみ ウルトラキャストマン 5号 |
| リーダー | ヤマシタ ニュークロー 40号 |
| ルアー | ペンシルポッパー |