釣りの安全管理
釣り人ほど危機管理ができていない人種もいないのではないかと思う。釣りを行っている環境に対して、釣り人の安全管理のレベルは極めて低いと言わざるをえない。普段我々が釣りをしているような場所は、実は一般人は間違っても来ないような場所ばかりである。それは、用がないからというだけでなく、単純にあまりにも危険だからである。今一度、釣行時の安全管理を考え直していただくために、本頁ではAngler's Highの考える
ライフジャケット着用の重要性
磯の心得
について記述していく。
- ライフジャケット着用の重要性
まずは、国土交通省の統計データを参照されたい。ライジャケ着用時に海難事故に遭遇した場合、その生存率は約80%であるのに対して、非着用時に海難事故に遭遇した場合は、生存率はわずか約20%である。20%とはどのような確率か。野球を観戦していて、打率2割のバッターに打席が回ってきたとき、あなたはヒットをどれほど期待するだろうか? 逆に、8割打者などというものが存在すれば、こんなに頼りになるものはないだろう。
ライフジャケットを着用していない人の多くは、「落ちない」と思っているか「落ちても泳げる」と思っているかのどちらかだと推察する。まず、前者は絶対に間違っている。人間は鳥ではないので、重力に逆らう術を持ち合わせていない。何らかの理由で足を踏み外せば、必ず落水する。後者に関しては、学生時代に水球に打ち込んだ経験から言わせてもらえれば、やはり間違っている。Tシャツを着たまま泳ぎ続ける過酷な練習をしたことがあるが、Tシャツ一枚でもまったく自由がきかなくなる。まして、洋服など着ていれば自由に泳げるはずなどない。
- 固形式ライフジャケット
釣り(特にルアー釣り)は上半身の動きが多いレジャーである。したがって、釣り用として市販されているライジャケは腕の動きを妨げないように設計されたものが多い。また、魚から見えるのを嫌って黒や青といった目立たない色のものが圧倒的に多い。しかし、これらは「救命」という本来の目的に大きく反していることにお気づきだろうか。
フェリーなどに常備されている固形式ライフジャケットは例外なく蛍光オレンジ色であり、また脇の下をきつく締めつける設計になっているため、股紐なしでも脱げにくいようになっている。一方、釣り用のほとんどの固形式ライジャケは、上記の理由から国土交通省の型式認可を受けておらず、したがって「フローティングベスト」という商品名で販売されている。つまり、釣り用の固形式ライジャケは股紐を通して初めてその意味をなすということである。ただでさえ海で目立ちにくい色をしているのに、まして股紐を通さないのであれば釣り用固形式ライジャケを着用する意味はないと断言する。
- 膨張式ライフジャケット
膨張式ライフジャケットには、手動式と自動式がある。膨張式の販売が始まった当初は手動式がほとんどであったが、落水時のパニック状態で紐を手で引くことは困難であるということから、現在はで自動式が主流になっている。当サイトでも、自動式を推奨する。
固形式と異なり、膨張式ライフジャケットのほとんどは国土交通省の認可を受けている(したがって、メーカーの商品名もライフジャケットとなっている)。その理由としては、膨張時には内側に織り込まれた黄色やオレンジ色の目立つ部分が外に出ることが考えられる。池などの止水域、港湾部や堤防、ボートフィッシングにおいては、かさばらない膨張式ライフジャケットが非常に快適である。肩から掛けるタイプと、腰に巻くタイプがあるが、これは好みで選ぶといいだろう。
しかしながら、例外的な状況を除き、膨張式の磯での着用は控えるべきである。なぜなら、膨張式ライフジャケットとは要するに浮き輪であり、鋭い磯に当たっただけで容易に破れてしまうからである。唯一の例外は、真夏の炎天下の磯。このような環境下では、固形式ライフジャケットを着用するとあまりの暑さに熱中症などを起こしかねないし、そもそも暑くて着ていられない。台風前後を除き、真夏の磯は凪であることが多いので、このような場合に限り磯で膨張式ライフジャケットを着用するようにしたい。
- 磯の心得
昔は、磯釣りと言えば必ず”口うるさい”師匠がおり、磯の危険性やその対処法、波の読み方などをみっちり叩き込まれながら一人前の磯師への階段を昇るのが普通だった。しかし、今は磯の経験がまったくない状態で荒磯に単独釣行するケースが見受けられる。特に若いルアーマンに非常に多いように思う。「教えてくれる人がいないから」「仲間がいないから」というのがその理由であろう。確かに、釣りは魚を釣ることが目的であるので、この手の話を真剣に記述している書籍やサイトも極めて少ない。しかし、実際に磯師がやっていることは、山岳やトレッキングと同じかそれ以上に危険なことである。磯に行くなと言っているわけではないし、磯は大自然に包まれた素晴らしいフィールドであることにいささかの疑いもない。ただ、その危険性を認識し、対処法を知った上で釣行して欲しいだけだ。
- 沖磯
沖磯は外洋に面しているため時化やすい反面、瀬渡し船の船長が時化ると判断すれば回収してくれるか、そもそも船が出ないため、地磯と比較して総合的に危ないというわけではない。しかし、船を瀬につけるそのときが最も危険な時間帯である。
- 瀬付けに見る船長の良し悪し
瀬付けで船長の腕の良し悪しと考え方がわかる。上手い船長は多少波があるときでも一発で付けるし、下手な船長は凪でも目的の位置に一発で付けることができない。上礁後にいざ時化たときのことを考えると、下手だと思った瀬渡し業者は以降使わないほうが無難である。また、ホースヘッドをしっかり瀬に付けない業者もいる。ホースヘッドを磯に近づけすぎると船を傷つけるかもしれないからである。このような業者は、船と客の安全を天秤に掛けて船を優先している。やはり、以降使わないことをお勧めする。
- クーラー
必ず肩ベルトがついたものを持ち込むこと。肩ベルトがないと、波が高い状態での受け渡しが非常に危ないからである。イグロには肩ベルトが付いていないが、釣具店に自作キットが売っているので、それを利用して必ず肩ベルトを装着する。
- 携帯電話
上礁した磯が時化て危なくなってきたとき、携帯電話が非常に重宝する。ほとんどの船長が携帯を持っているので、船を呼ぶことができる。しかし、電波の圏外であってはまったく意味がない。自分が行くエリアをカバーしているキャリアを使うのも安全対策の一つである。また、防水の端末が理想的だが、もしそうでない場合は、簡易防水のケースに入れておくことを推奨する。雨や飛沫程度ならばしのげる。ケースは登山用品店などで購入可能だ。
- 地磯
沖磯と異なり、すべての面で自分の責任と判断で釣行するのが地磯である。まず、磯上での注意点を挙げる。
- 大時化の日は釣行を控える
大原則である。どうしても釣りがしたいなら、風裏・波裏の磯を探すこと。やや時化気味の磯で釣りをするときは、まず到着してから海の様子を観察すること。自分が立つつもりの場所が濡れていたら要注意である。今は波をかぶっていなくても、たまに来るドカ波に洗われている証拠だ。
一方、ヒラスズキ釣りは波がなければ成立しない特殊な釣りであるが、これも立ち位置が非常に重要になってくる。まず、波が洗っているところには間違っても立たない。無理して前に行くのではなく、一歩下がった状態でもピンスポットにキャストできる技術を磨くべきである。また、安全なランディング位置と方法を確保してからキャストを開始する。
- ウェーダーは使用しない
特にヒラスズキ狙いのアングラーに多いが、磯でのウェーダー着用は大変危険である。ウェーダーを着用した状態で落水すると、足側に空気が溜まり足が浮く。こうなってしまうと、たとえライフジャケットを着用していても身動きがとれないし、磯に上陸することもままならない。「落ちたらナイフでウェーダーを切ればいい」という人もいるが、ウネリを伴う磯でそのような余裕があるはずもない。幻想である。
次に、磯歩き・山登り・崖下りに関する注意点を挙げる。
- 赤土を歩くときはピンソール
現在の磯靴はフェルトピンが主流である。確かに、磯の上ではこれが万能である。しかし、雨後の赤土を歩いたあとは、フェルトの目に赤土が詰まってしまい、非常に滑りやすくなる。赤土を歩くポイントでは、ピンソールの磯靴を推奨する。また、靴底をマジックテープで交換できるタイプは、山道を歩いている最中に小石や土が入り込み、剥がれやすくなって危険であるため、長時間歩く地磯には向かない。
- ロープを確認
崖下りにロープは付きものである。多くの場合、先人が掛けたものをありがたく使わせてもらうわけだが、過信は禁物である。ロープへの依存度が高い場所では、まず降り始める前にロープが使用可能かチェックすべきである。紫外線劣化や摩擦によって、今にも切れそうロープは少なくない。また、ロープが結んである木が折れそうになっていたり、根っこが抜けそうになっていたりすることもあるので注意したい。
- 足場を確認
場所によっては、崖に張り付くようにして歩かなければならないところもある。このような場所には行かないに越したことはないのだが、どうしても行く場合は足場と手をかける場所をしっかり吟味する必要がある。注意したいのは、小さな出っ張りは取れやすいということである。ちょうど握りやすい大きさの出っ張りが、実は危うい。ポロっと取れてしまえば、即転落である。なるべく大きめの、丈夫そうな出っ張りを冷静に見つけることが重要である。
- 焦らない
思ったよりも潮位が上がっていたり、突然時化てきたりして、行きがけに通ったルートを通って帰れないことがある。こういうときは、決して焦ってはいけない。私の磯歩きの師匠は、ルートの見つけ方をヤギに学んだという。ヤギは、信じられないような崖を伝って歩いて行くが、難しいと思った場所では必ず立ち止まる。そして、通れると確信できるルートが見つかるまで、ひたすらシミュレーションを続けるのである。磯歩きの場合も同様で、冷静に辺りを広く観察すれば、多くの場合において通行可能なルートが見つかるものである。
参考サイト
国土交通省
ライフジャケット(救命胴衣)コーナー
魚と遊ぼ!海釣り道場
海難防止ガイド
海難事故を考える
ライフジャケットは命綱
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